ヘイジュードを聞くとごんぎつねの兵十を思い出す

「なんかあ、両親が昔からビートルズとか好きで聞いてたから、物心ついた時にはすでに音楽が生活の一部だったんすよねえ」

 

ロッキンオンジャパンやナタリーを読めば、イケ好かない若手ミュージシャンが生い立ちをインタビューでそんなことを言っている光景を観測できる。

大抵前髪が異様に長い。あるいはキノコカットである。なんでこんなに腹立つのだろう。「釘バットは魔法だよ」って叫びながら顔面ぶん殴りたい。

 

ただ恐らくこの腹立たしさの原因の半分は嫉妬だ。「幼少期から音楽はそばにあった」的バックボーンって、とてもカッコよく映るんだよね。僕にインタビューを受ける機会などないのだけど。

 

母はスピッツ吉田拓郎が好きということは知っている。だが、某レンタルショップでCDを借りてダビングしたものをカーステレオで流していた程度なので、特別音楽好きだったという印象はない。

 

父にいたってはそもそも好きなミュージシャンがいるのかすら知らなかった。僕自身が音楽にドップリハマり始めたのが中3と遅めだったのもあり、そういった話をしたのは記憶にある限りでは一度きりだ。

 

高校生の僕が、当時入院していた父の見舞いに行った時のこと。病室に入ると、手にしていたiPod nanoに父が興味を持ったのである。

その時シャッフルでたまたま流れていたELLEGARDENのSalamanderを聴いた父は、「お前中々カッコいい曲聴いてるんだな」と言った。

当時思春期真っ只中で微妙な距離感の父の意外な感想僕は「お前に何がわかるんだ」と内心毒づいていた。反面、好きなものを褒められ、共有できたことにむず痒い喜びを感じたのも覚えている。

 

 

 

 

「え、あんた知らなかったの!??」

 

昨年、姉と食事をしている最中に意外な事実を知った。話の流れは記憶にないが姉によると、父は実は音楽好きであり、以前は大量のレコードを所有していたらしい。それこそビートルズなんかもあったそうだ。僕が物心つく前に処分してしまっていたようだが。

 

そう。僕にもイケ好かないバックボーンがあったのだ。これからは「胎教としてビートルズ聴いてたんすよ」と言って相手をイラつかせることもできるのだ!

 

しかし事情があって処分してしまったのはわかるが、もし残しておいてくれたら、またちょっと違う人生だったのかなと夢想する。

もしかしたら、もっと早くバンドに興味を持っていたかも。ギターをはやく手にしていたかも。そうしたら友達のいない暗黒時代も強い気持ちで乗り切れたかも。父との微妙な距離感も埋められたかも。

 

しかしたらればの話をいくらしてもしょうがなくて、この時僕はすでに生活の困窮から楽器を手放していたし、父の死からはもうすぐ10年が過ぎようとしていた。